千葉県難病相談・支援センターだより(平成22年3月 第7号)より1部の記事を抜粋したものです。
WEBのURL
http://nanbyo.ho.chiba-u.ac.jp/letters/pdf/nanbyo_no7.pdf#search='%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%88+%E5%8D%83%E8%91%89%E6%9D%B1%E7%97%85%E9%99%A2'

みなさんは「レスパイト入院」と聞いて、どんなイメージを持たれますか?
レスパイトには、「息抜き」「一時休止」の意味があります。長期に渡り、在宅で難病患者さんが暮らしてゆくには、本人も介護者も無理の少ない環境整備が重要となります。どんなに頑張っている方でも、人間には必ず息抜きが必要です。それが家庭という密室では尚更の事、介護者は休む間もありません。大切な家族の為とあらば、気付かぬうちに頑張りすぎてしまう方も多いのではないでしょうか。でもそんな方こそ息抜きは重要です。
勇気を持った息抜きは、ゆくゆく、患者さん本人の為にもなるのです。そんな在宅療養生活を支える為にあるのが、レスパイト入院です。
今回、千葉県でも始まったレスパイト入院を、県庁の疾病対策課「重症難病患者入院施設確保事業」担当者と、実際受入れを担っている千葉東病院へ行って、事業の内容と利用状況を伺って来ました。
昨年9月から、今回お話を伺った千葉東病院の他に、八千代市にある新八千代病院と四街道市の下志津病院の全4床を利用して事業がスタートしています。利用に際しては、地域の保健師さんへの相談が必要です。患者さんからの要望を保健師さんが募り、難病医療専門員が調整し、県の審査の上、受入れが決まります。空床状況によって希望に添えない事もありますが、患者さんから受入先の希望も聞いています。日程含めた交渉は、保健師さんを通じて難病医療専門が行います。
なるべく多くの患者に利用してもらうため、またレスパイトという目的から利用期間は特別な理由を除いて、1回20日以内、利用回数は同年度で3回以内と制限があります。また、病状が安定している事が前提で、入院時の基本的な検査を除いて特別な処置・治療は行ないません。在宅で利用している呼吸器をそのまま持ち込んでもらい、自宅に近い環境で過ごしてもらいます。申し込みには、今までの生活状況を書いた書類の提出が必要です。また、緊急時の対応や状況把握の為、かかりつけ医との連携も必須となります。特別な医療費はかかりません。それ以外の雑費もそれほど負担ではないと思われるのですが、問題は移動に伴う費用です。人工呼吸器管理であれば、民間救急を使う場合が多いため、遠方であればあるほど高額となります。本当は住所地に近い病院が選べるのが理想ですが、選べる程、体制が確保されていません。将来の理想は2次医療圏ごとに協力体制が整うことだと思いますが、その状況が整うのはいつになるかは分りません。
昨年9月から2月末までの利用は5名程、予約も3名と、まだまだ空床が目立ちます。
千葉東病院/神経内科医長の吉山容正先生は、「少しでも家族の負担が軽減され、先の見えない介護に、生活のリズムができるようにレスパイト入院を上手く活用してもらえたら良い。今まで利用した事がない方にとって、この入院が良いのか悪いのかも分らず、在宅でひたすら頑張り続けている方にこそ、積極的な利用を検討してもらいたい」と言われています。
家族を預けて自分が休息をとる事に罪悪感を感じる方、気付かぬうちにギリギリまで頑張ってしまっている方、レスパイト入院という事を考えてみた事のない方がいったいどれだけいるのでしょうか。県内にはALS患者さんだけも人工呼吸器装着の患者さんは76人もいます。千葉県全体で4床なんてとても足らずに、問合せが殺到するのではないかと思っていた私は予想外の状況でした。
「長期入院できる病院が空くまでの間、入院させてほしい」との要望や、「人工呼吸器管理ではないが医療依存度が高く、介護が大変」など、現在の受入れ条件に合わずお断りした方が多くいる現状もあります。たしかに、人工呼吸器装着でなくとも、介護の大変な家族は他にも沢山います。この方々にも将来的には目を向けてゆく必要があると思います。
現時点での対象者が人工呼吸器装着を必須条件としたALSの患者さんとかなり限定されています。しかし、今後、他の方に目を向けてゆく為にも、まずはその患者さん・家族の意識の中に、レスパイト入院を利用してみようをいう気持ちが芽生える事が大切です。その行動が将来的には必要に応じた対象者の拡大・見直しに繋がってゆくはずです。人工呼吸器装着したALSの患者さん・そのご家族の方は、一度、地域の保健師さんへ相談し、利用を考えてみては如何でしょうか。
(文:総合難病相談・支援センター/千葉大学医学部附属病院 日比野加奈子)