千葉県難病相談・支援センターだより(平成26年12月第15号)より1部の記事を抜粋したものです。

難病探偵団 ミッション13
今回の難病探偵団は、千葉県で行っている「在宅難病患者一時入院事業」のご紹介とともに、平成26年9月28日に行われた、公益財団法人千葉ヘルス財団主催在宅ケア研修会「ALS患者家族を支えるために、その現状と必要な支援」のなかから、「千葉県難病レスパイト事業の現状」のお話のレポートをしたいと思います。

千葉県では「在宅難病患者一時入院事業」(以下、レスパイト事業)という形で、レスパイト目的の入院支援事業を行っていることをご存じでしょうか。ご家族など介護者が介護疲れ、病気、事故などにより、在宅での難病患者さんの介護が難しい状況の際に、一時入院してもらい、安定した療養生活の確保と介護者の福祉の向上を目的とした制度です。 事業の実施要項上は、以下の要件をすべて備えている方を対象としているとのことですが、当面の間は、「気管切開をし、人工呼吸器を装着した神経・筋疾患の患者さんを対象」としています。

【利用に際しての要件】
1)千葉県に住所を有する方
2)在宅で療養する千葉県特定疾患治療研究事業の受給者
3)家族等の介護i者の休息(レスパイト)、または事故等の理由により、介護等がうけられなくなった方
4)常時医学的に管理下に置く必要があり、病状の安定している方
〜千葉県・難病患者一時入院事業のウェブサイトより〜

【入院できる病院】
千葉県のレスパイト事業は、平成25年からは対象となる医療機関を増やし、各地域の保健所、健康福祉センターなどで申請を受け付け、かつ情報提供を行っています。現在は、以下の13病院が対応をしています。
・千葉東病院(千葉市)  ・船橋総合病院(船橋市)  ・セコメディック病院(船橋市)  ・東松戸病院(松戸市)  ・公立長生病院(茂原市)  ・成田赤十字病院(成田市)  ・千葉・柏たなか病院(柏市)  ・新八千代病院(八丁一代市)  ・初富保健病院(鎌ヶ谷市)  ・県立佐原病院(香取市)  ・北総白井病院(白井市)  ・亀田総合病院(鴨川市)  ・下志津病院(四街道市)

【その他】
利用回数は年度内に3回まで。申請窓口は住所地の健康福祉センターおよび保健所です。
では、実際に制度が運用される中で、患者さんや支援者の方々はどのような感想を持っているのでしょうか。

「平成27年在宅ケア研修会」にて
9月に開催された(公)千葉ヘルス財団主催の在宅ケア研修会内で発表された「千葉県レスパイト事業の現状」では下記のような報告がありました。実際に当レスパイト.事業を行っている国立病院機構千葉東病院の看護師、中村和代さんのお話です。 講演では、実際に中村さんが看護師として訪問している患者さんのお話や保健所に行ったアンケート結果を交えて、レスパイト事業を利用した方が感じている制度の課題やどのようなニーズがあり、制度に何が求められているかについてのお話がありました。

まずはアンケート結果から
●レスパイト事業利用アンケートの結果から(制度を利用した方と全21保健所のうち、23名の方から回答あり)

各保健所、健康福祉センターの保健師は、家族や介護者の状況を聞きながらレスパイト事業の利用を提案、積極的な享業の周知を実施し、介護者が介護の負担過多に陥らないための休暇をとるように促しています。またレスパイト事業の計画的、継続的な利用をすすめたり、希望時に対応できるよう支援を行っています。 実際の相談の現場で見えてくるレスパイト事業はどのようなものでしょうか。

・レスパイト事業の利用状況
アンケートに回答のあった23名の方が所属している保健所での事業の利用有無については、制度利用に至った事例が16件、調整を行ったが利用に至らなかったが4件、利用に携わった経験がないという回答が6件ありました。利用に至った経緯としては、本人、家族の希望によるものが一番多く(10件)、次に生活状況を本人、家族から確認したうえで介護者の休養が必要と考え、保健師がすすめたというものが次に多い(6件)という結果がでたようです。利用に至らなかった理由としては、「入院先では初対面のスタッフが本人の介護にあたることになるため漠然とした不安がある」、「あまり長距離を移動したことがないので大丈夫なのか不安」という意見や、「遠くの病院になってしまうことがあると聞き、移動費が不安」、「自宅とは違い看護師がすぐ来てくれるわけではない」、「自宅に来てもらっているヘルパーの付き添いを希望したが調整がつかなかった」、「住み慣れた自宅を離れたくない」、「介護保険や自立支援サービスを使い分担して介護しているので必要性を感じない」といった声があったようです。

・利用に際しての問題点
では次にレスパイト事業を利用するにあたり、どういった点が障壁になるのだろうかという点です。アンケートでは、「制度利用に際してのオリエンテーションがわかりづらい」、「かかりつけの病院がレスパイト事業をしていない」、「受け入れ病院が保健所管内より遠く、本人・家族になじみがなく勧めづらい」、「自己負担金がどのくらいかかるのか事前に知りたい」、「用意する物品について、どこから病院で対応してくれるのかが不明瞭」といった意見が寄せられました。

・この事業への要望
各保健:師が本人や家族と相談を進めるなかで抱いた事業への要望としては、「ALS患者に留まらず、神経難病全体への普及を希望」、「NIPPV使用患者や人一L二呼吸器を装着していない気管切開のみの方などにも対象を広げてほしい」、「住み慣れている自宅の近くや保健所の所管内に受け入れ可能な病院をつくってほしい」、「受け人れ可能な病院内でレスパイト事業用の病床拡大」、「移送費負担の軽減」、「利用回数を増やしてほしい」、「このような事業は継続してほしい」という意見が挙げられています。

・レスパイト事業を利用した本人、家族からの感想
「介護疲れを解消できた」、「睡眠をゆっくりとれた」、「旅行に行きリフレッシュできた」、「この制度利用をきっかけに介護サービスを使うようになり、介護負担が減った」、「介護者の入院で制度を利用、この事業なしでは在宅介護は不可能だった」、「各支援機関とのつながりができ安心感に繋がった」、「介護を他者に委ねることができたのがよい点」といった意見がある一方で、「レスパイトで利用した病院のスタッフが難病患者の対応に慣れておらず、苫痛を感じた」、「患者が夜勤スタッフとトラブルがあり、受け入れ医療機関への拒否反応が現在も続き、継続利用が困難」、「高齢の介護者が夜間に医療機関に呼び出され(人工呼吸器が外れたため)休養にならず、かえって疲れた」、「介護者の回復に期間が十分でなかったため、患者は利用後も別の医療機関に入院した」などの感想が挙げられました。

●今後、レスパイト事業に期待すること。
問題点の解消には?
各保健所、健康福祉センターのスタッフからの意見では、総じてこの事業を利用した本人や家族には「事業がよい影響を及ぼしたように感じられる、今後とも必要な事業だ」との声が寄せられています。その一方で上記アンケートを踏まえ、どういった点を改善していくことで、より本人や家族の力になる事業とすることができるのでしょうか。

・住み慣れた地域でのレスパイトを
住み慣れた地域でのレスパイト実現、遠方への移動費の懸念を払拭するためにも居住区近く(保健所管内)での受け入れが可能になるよう、病院と病床を確保することに加え、受け入れ機関としてALS、人工呼吸器装着患者に対しての知識不足がないよう研修の強化の必要性が挙げられます。また本人や家族側としては、病院では自宅で行っているような対応が難しい場合があることへの理解も必要になってくるのかもしれません。また今後は、他疾患、条件の難病患者さんへと対象を広げていくことも求められています。
・本人、家族が選択しやすい情報提供を
レスパイト事業の概要だけでなく、メリット、デメリットの情報提供、オリエンテーションを行ったうえで、本人や家族が選択できるような体制づくりが必要となってくると思います。 レスパイト事業を発展的に改善していくためには、各居住区ごとに利用状況を県で把握したり、利用者の感想の集約、対策案の立案等、有効活用していく視点も必要になってくるのかもしれません。レスパイトは家族の休息、休養を意味するものです。長く療養を継続するには、本人、家族に無理のない、折り合いのついた介護状況をつくっていく必要があります。患者を中心に、地域の資源、スタッフと家族の連携で、介護を苦しくない、無理のないものにしていく必要があります。それにはまず、お互いのコミュニケーションと信頼関係の醸成が大切です。日々の生活、介護状況がもっとゆとりのあるものであってほしい、そのためにレスパイト事業の発展は必要不可欠です。 このように中村さんの講演は締めくくられました。自宅で訪問看護師や訪問介護の方々の力を得て、療養継続されている方は多くおられますが、住み慣れた場所で療養を続けたいという思いを実現するには、無理をしすぎない介護状況をどのようにつくるのかということが大きな課題です。今後、レスパイト事業をさらに発展させ、病院でのレスパイトという新たな関係性を介護の場面に取り入れながら、病院との関わりを育てていくことも大切な要素かもしれません。実際に相談支援を行う現場の方々の視点から、そのための課題はどういうものなのか、多くの示唆をいただいた講演となりました。
千葉県総合難病相談・支援センター
ソーシャルワーカー市原章子